オリュンポス山登山記

ギリシア旅行記

ギリシア神話に登場する数多の神々。

多神教であるために1つ1つの川や山にも神々が宿っているとされ、神々やその血を引く英雄たちが神話を豊かに彩っています。

その中でも最高位を占める12柱の神々、それが大神ゼウスを主神とするオリュンポス十二神。

彼らが住まうとされていたのが、標高2,918mを誇るギリシアの最高峰、オリュンポス山です。

オリュンポス山 ミティカス峰(筆者撮影)

小学生の頃からキャンプに親しみ、高校では山岳部、大学ではワンダーフォーゲル部に所属していた私は大の登山好き。

大好きなギリシア神話の重要な舞台に登れるとあっては、チャレンジしないという選択肢はありません。

1か月間のギリシア旅行の目玉企画として、オリュンポス山登山に挑戦しました。

日本での情報収集

旅行中、大いに参考にしたのが「地球の歩き方」。

この本ではオリュンポス山の登山について軽く触れられていましたが、具体的な情報はありませんでした。

という訳で、主な情報源はインターネット。

個人ブログやヤマレコで情報を集めたところ、テッサロニキからオリュンポス山の麓の街リトホロまでバスが出ており、山小屋に宿泊すれば1泊2日で登れることがわかりました。

テッサロニキはペラ遺跡訪問でも拠点とした都市のため、その後に行けば効率が良いだろうということで計画を立てました。

リトホロへの旅立ち

ギリシア旅行2日目の朝7時、テッサロニキのマケドニア・バスターミナルの4番乗り場から出発しました。

リトホロ行きのチケットは9.3ユーロ(2018年10月当時)。

また帰りのバスを確認するため、時刻表をもらいました。

ギリシア旅行中に活用した長距離バスKTELは一応サイトもあるのですが、非常に見づらく、紙の時刻表が頼りでした。

10月の朝7時ということでまだ暗い中、オリュンポス山の麓の街リトホロに向けてバスが走り出しました。

途中、カテリニというバス停で止まりましたが、リトホロまでの直通バスであるため、そのまま乗車。この頃には空も明るくなり始めていました。

リトホロに近づくにつれ、右手に山々の姿が見えてきました。

左手に広がる海も美しく輝いています。

8時24分にリトホロに到着。小さいながらも綺麗な町です。

リトホロの街

プリオニアまでの道のり

一般的にはここからタクシーで登山口のプリオニアに向かいますが、タクシーの探し方がわからないこと、料金が25ユーロもかかってしまうために大学生の貧乏旅行にはふさわしくないこと、せっかく登山道があるなら途中の道も楽しみたいことから、歩いてプリオニアに向かうことにしました。

最初はひたすらに登り。

傾斜はそれなりにきつく、すぐに汗だくとなりました。

しかし登山道自体はしっかりしており、スマホのGPSアプリを使っていたこともあって迷うことはありませんでした。

途中には眺望の開けている場所があり、そこからは眼下に広がるリトホロの町と海を眺めることができました。

1時間半弱歩いたところで、オリュンポスの山々の姿が見えました。森林限界を越えた灰色の山肌は美しく、荘厳でした。

登山道は細かい起伏が多く、何回上り下りしたか、途中で数えるのをやめてしまうほどでした。

橋を4本渡り、滑りやすいアーチ状の木造の橋では二度ほど軽く転倒しましたが、橋から見える岩と川の織り成す地形は本当に美しかったです。

リトホロから歩く登山者は少数派のようで、途中まで誰ともすれ違うことなく、自分のペースで登山を楽しむことができました。

事前に見た登山記録では、「プリオニアからリトホロまでの道程は起伏の激しい酷い道」と書かれていましたが、景色を楽しむことができ、日本の低山によく似た森林歩きも楽しめました。

体力に余裕があるなら、ぜひ歩いてほしいと思える道でした。

余談ですが、途中で数頭の馬を見かけました。

荷物運びの馬(筆者撮影)

オリュンポス山の小屋では物資の輸送に馬を用いているとのこと。

それを証明するかのように、道には馬糞が落ちていました。

馬は整備された登山道を歩いているので、この馬糞がある意味では道しるべの代わりにもなりました(笑)

プリオニアからアガピトス小屋へ

11時53分、登山口のプリオニアに到着。

掃除されたトイレと水場があり、整備が行き届いた場所でした。

キンキンに冷えた美味しい水で乾いた喉を潤し、また水筒にたっぷり補給しました。

一息ついた後、メインのE4ルートを進みます。

最初は涼しく感じましたが、登っているうちに暑くなってきました。

登山道はしっかりと整備されており、紅葉した木々が目を楽しませてくれます。

登山道の紅葉(筆者撮影)

途中歩きながら行動食や飲み物を摂りつつ、ほとんど休憩なしで登り続けました。

後半は傾斜がきつくなりましたが、自分一人だからと体力に任せて突き進みました。

大学生当時、サークル仲間から「体力オバケ」とあだ名されていた私はどうも集団のペースに合わせるのが苦手で…

もちろん友人たちと一緒に登る山も楽しいのですが、自分でペースを決められる単独山行はやはり気持ちの良いものでした。

14時13分、アガピトス小屋に到着。

アガピトス小屋(筆者撮影)

予約していなかったため、若干心配していましたが問題なく泊まることができました。

宿泊費は素泊まりで13ユーロ(2018年10月当時)。

素泊まりでも1泊5,000~6,000円かかる日本の山小屋と比べると格安で、Wi-Fiも利用できました。

天気が良かったので、小屋の冷水シャワーを使って洗濯し、日向ぼっこしながら服を乾かしました。

オリュンポス山の眺めもよく、翌日の登頂への期待が高まりました。

夜は小屋でミートソーススパゲッティ(5.5ユーロ、宿泊費とは別料金)を食べ、翌日に備えて18時30分には眠りにつきました。

オリュンポス山のミートソーススパゲッティ(筆者撮影)

オリュンポス山頂への挑戦

翌朝6時に起床し、6時30分に小屋の鍵が開くと同時に出発。

しかし一晩屋内にいたためGPSの回復を待つ必要があり、結局6時48分に出発しました。

未だ日は昇っておらず、星空の下をヘッドライトの明かりを頼りに歩きます。

途中で森林限界を越え、岩山をひたすらに登っていきます。

傾斜がきつく、気温は低いはずなのに汗が止まりませんでした。

8時頃に日の出を迎えると、岩山の景色はより一層美しく感じられました。

オリュンポス山からの朝日(筆者撮影)

8時14分、ミティカス峰とスコリオ峰の分岐点であるスカラ座に到着。

オリュンポス山で最も標高が高いのは2918mのミティカス峰ですが、登攀技術が必要です。

縦走をメインに登山を続けてきた自分にはその技術も装備もないため、ここで無謀な挑戦をする意味はありません。

スコリオ峰も2912mであり、十分にオリュンポス山に登頂したと言えます。

ミティカス峰は日本の南アルプスの地蔵岳でいうオベリスクのようなものであると捉え、スコリオ峰に向かって左側に進路を取りました。

稜線上は風が冷たく、リュックから防寒着を取り出して着用を試みましたが、手がかじかんでうまくチャックを閉めることができませんでした。

このままではまずいと、手を暖めながらなんとか防寒着を着ることができましたが、もう少し早く着るべきだったと反省です。

稜線上からはスコリオ峰がはっきりと見え、朝日の下で荘厳な佇まいを見せていました。

オリュンポス山の頂上の一つ、スコリオ峰(筆者撮影)

登頂時刻は8時32分。

他に人はおらず、その日に登頂した初めての人間となれたようです。

登頂写真(画像内の人物は筆者本人)

ついに神々の頂に辿り着いた。オリュンポス十二神の住まう山に登ることができた。

空も晴れ渡っており、ミティカス峰をはじめとする壮大な景色に喜びも膨らみました。

本当は1時間ほど山頂を楽しむつもりでしたが、寒さに耐えられず10分ほどで下山を決意。

ミティカス峰の方角に雲がかかり始め、眺望が悪くなってきたこともあり、神々の意思かもしれないと思いました。

下山とリトホロへの帰路

小屋を目指して下山する途中、幾人かの欧米人とすれ違いました。

皆、この時間に下ってくる人間がいることに驚いていました。

9時33分、小屋に到着。早朝に出発することを心配してくれていた小屋の方にも無事に登頂できたことを伝えました。

9時40分に出発し、来た道を戻ります。

プリオニアまではずっと下り坂で、11時少し前にはプリオニアに辿り着きました。

帰りもリトホロまで歩き、水を補給してすぐに出発しました。

14時16分にリトホロの町に到着。

この綺麗な町で一泊したいところでしたが、まだまだ予定が詰まっていたためテッサロニキへ向かいます。

本当はリトホロから次の目的地であるデルポイ遺跡に直接向かいたかったのですが…

マケドニア・バスターミルで「直行便はない」との情報を得たため、逆方向にはなってしまいますが仕方なく一旦テッサロニキへ戻ることになった訳です。

テッサロニキ行のバスは15時発。

直通ではなくカテリニで乗り換えが必要な便でした。料金は往路と同じ9.3ユーロ。

左手に聳える山々を臨み、自分はあの山に登ったのだ、と誇らしい気分でリトホロの町を後にしました。


地球の歩き方 A24 ギリシアとエーゲ海の島々&キプロス 2019-2020

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