ギリシア神話って何?

ギリシア神話

ギリシア神話。それは、古代ギリシア人によって語り伝えられてきた神々や英雄の物語だ。

そのエピソードは絵画や彫刻の題材として好んで用いられ、現代でもゲームやアニメの元ネタに使われることの多い、日本で最もメジャーな神話の一つだ。

では、そのギリシア神話とはどのような神話だったのか?誰がどうやって語り伝えてきたのか?

今回はギリシア神話大好きな私が、「ギリシア神話って何?」と題してご説明したいと思う。

古代ギリシア人って?

古代ギリシア人とは、主に現在のギリシアを中心とした地域に住んでいた人々を指す。

しかし古代ギリシアは一つの国家にまとまっていたわけではなく、複数の都市国家=ポリスに分かれており、その数は最大で1,000を超えるとも言われている。

紀元前550年頃のギリシア人居住地域(青色部)

さらにギリシア人は海外に集団で移住することも多く、イタリアや地中海の島々、現在のトルコ地域にも住んでいた。

都市国家は互いに敵対しており、常にどこかで争いが起きている状態だった。

そのため”ギリシア人”としての意識よりも、自分が属する都市国家、例えば”アテナイ人”や”スパルタ人”としての意識が強かったのだ。

ギリシア人のアイデンティティ

それでも、ギリシア人であることには誇りを持っていた。

では、彼ら自身はどうやって自分たちを定義し、他の民族と区別していたのだろうか?

ギリシア語を話すこと

ギリシア人は共通の言語としてギリシア語を持っていた。

地方によって方言はあったが、それでも共通の言語としてギリシア語が存在した。

オリュンポス12神を信仰すること

ギリシア人はオリュンポス12神を中心とする神々を信仰していた。

これはギリシア神話を信じていることを意味する。

これに付随して、デルポイで行われる予言を信じることや、4年に一度神々に捧げるオリュンピア祭(古代オリンピック)に参加することもギリシア人の定義として挙げられる。

デルポイのアポロン神殿(筆者撮影)

オリュンピア祭に参加しているのがギリシア人の定義ということは、逆に言えばギリシア人でないとオリュンピア祭には参加できない、ということになる。

余談だが、ギリシアの北方にあったマケドニア王国のアレクサンドロス1世は、家系図を持ち出して自分がギリシア人であると主張し、これが認められてオリュンピア祭に出場することができた、という逸話が残されている。

ギリシア人はこれらの条件に当てはまる自分たちをヘレネスと呼び、それ以外の人々をバルバロイと呼んで区別していた。

バルバロイとは「訳のわからない言葉を話す者たち」を意味し、後には英語の”Barbarian(蛮族)”の語源にもなった。

ギリシア神話の歴史

それでは、ギリシア神話がどういう歴史を辿って成立したのかを見ていくとしよう。

そのルーツは紀元前3200年ごろ、今から5000年以上前に成立したエーゲ文明に遡る。

ギリシアの島々で生まれた文明で、最初はキュクラデス諸島で生まれたキュクラデス文明、そしてクレタ島を中心にミノア文明が成立した。

ミノア文明のクノッソス宮殿遺跡(筆者撮影)

その後、紀元前1600年ごろにギリシア本土でミケーネ文明が成立した。

ミュケナイ遺跡 獅子の門(筆者撮影)

ミケーネ文明は軍事的な性格の強い文明だったが、紀元前1200年ごろに突如滅亡した。

その理由ははっきりしていませんが、異民族の侵略や災害が原因とされている。

ミケーネ文明が滅亡した後、200〜300年の暗黒時代が続いた。

この時代に関する文献が残っておらず、何が起きたかはわかっていない、つまり「歴史が暗黒に包まれた時代」という意味で”暗黒時代”と呼ばれている。

しかし、この時代にギリシアの叙事詩が洗練されていき、紀元前8世紀頃にはホメロスによって”イリアス”と”オデュッセイア”が生まれた。

ホメロスとヘシオドス

ホメロスはギリシア神話のラストを飾るトロイア戦争とその後日談を描いた叙事詩の作者とされている。

”イリアス”は15,639行、”オデュッセイア”は約12,000行あり、最初はこれを暗記して口で語っていたのだ。

少し遅れて、ヘシオドスが”神統記(テオゴニア)”という作品を生み出した。

これは世界の始まりや神々の系図を語る作品だ。

こうして、ホメロスとヘシオドスによってギリシア神話のルーツが形成されたのだった。

ギリシア神話の拡散とヘレニズム文化の成立

その後、ホメロスとヘシオドスの詩を元にギリシア神話をテーマにした演劇や詩、歌が数多く作られ、ギリシア神話のイメージが固まっていった。

その後、マケドニアの支配下に置かれたギリシア人たちは東方遠征を行い、ギリシアとペルシアの文化が融合してヘレニズム文化が生まれた。

ヘレニズム文化とは、ギリシア風の文化を意味する。

ローマ帝国とギリシア神話

後にイタリアで生まれたローマ帝国がギリシアやヘレニズム諸国を征服し、ギリシア神話はローマ文化にも取り入れられた。

ローマ人はギリシア文化を非常に愛し、神話をそのまま取り入れた。

神々の名前はローマ風に変えられたが、中身はギリシア神話そのものだった。

例えば、ギリシア神話の最高神ゼウスは、ローマではユピテル(英語ではジュピター)として知られるようになった。

尚、ローマでもギリシア神話は詩や演劇の題材となり、新たな逸話が追加された他、元々あったエピソードも娯楽性の強い性格を見せるようになった。

ギリシア神話の内容

ギリシア神話は大きく分けると二つの部分に分かれている。

神々の物語

神々の物語はさらに二つに分けられる。

前半は世界の始まりから、ゼウスがいかにして神々の王座に上り詰めたかを描き、後半は神々の日常を描いている。

英雄の物語

英雄の物語も前半と後半に分かれている。

前半は英雄たちによる怪物退治が中心で、ファンタジー色の強い内容だ。

後半は人間同士の戦争が描かれ、より歴史に近い内容となっている。

終わりに

ギリシア神話は古代ギリシア人の文化や歴史、信仰が詰まった物語だ。

次回からは、ギリシア神話の具体的なエピソードや神々、英雄たちの物語に焦点を当てていきたいと思う。

参考文献

『神統記』 ヘシオドス著 廣川洋一訳(2021年/岩波文庫)

『ギリシア神話』 アポロドロス著 高津春繁訳(2017年/岩波文庫)

『ホメーロスの諸神讃歌』 ホメーロス著 沓掛良彦訳(2018年/筑摩書房)

『詳説世界史研究』 木村靖二・岸本美緒・小松久男編(2019年/山川出版社)

『イリアス 上・下』 ホメロス著 松平千秋訳(2017年/岩波文庫)

『オデュッセイア 上・下』 ホメロス著 松平千秋訳(2012年/岩波文庫)

『イソップ寓話集』 イソップ著 中務哲郎訳(2015年/岩波文庫)

『仕事と日』 ヘシオドス著 松平千秋訳(2021年/岩波文庫)

『ギリシア神話 上・下』 呉茂一著(1986年/新潮社)

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