リゾート地として日本人にも大人気のハワイ。
しかし、そんなハワイにどのような神話が語り伝えられているか、ご存じだろうか?
今回はハワイ神話で語られる”世界のはじまり”について解説していく。
ただし数多くの島々から成るハワイには様々な、そして相互に矛盾するようなエピソードが語り伝えられているため、今回ご紹介する物語は私なりに整理・再構成したものであることはご了承いただきたい。
尚、今回の記事はYoutubeにて動画でも解説しているため、ぜひそちらもご覧いただけると幸いである。
世界のはじまり
かつて世界は真っ暗な闇に包まれ、物音もしない静寂な空間が広がっていた。この空間は”ポー”と呼ばれていた。ギリシア神話でいえば”カオス”に当たるだろうか。
やがて、”カネ”という神が現れた。彼は生命や日光、清水、癒し、植物を司る神であるが、その出現の経緯は謎に包まれている。特に系譜が語られることもなく、唐突に現れるのだ。
カネは海に浮かぶひょうたんを見つけた。
…ポー=何もない空間だったはずなのに、急に海とひょうたんが現れたことについてはこの際一旦置いておくとしよう。
このひょうたんが世界の創造に大きな役割を果たすことになる。カネはこのひょうたんを拾い上げ、空高く放り投げた。するとひょうたんの上半分が空に、下半分が大地になった。さらに、果肉の大きな部分は太陽に、もう少し小さな欠片は月になり、空に散らばった種は星となった。
こうして世界の外枠が完成したところで、三柱の神々が現れた。
海の神カナロア。
戦いと農業、漁業、森、癒しの神クー。
そして平和と豊穣の神ロノ。
三柱の神々はカネが作り上げた世界に感動し、自分たちも創造に加わりたいと助力を申し出た。
カナロアは自分の担当区域である海を珊瑚や魚、貝などで満たし、これに刺激されたカネは陸の動物や虫、空飛ぶ鳥を生み出した。クーは森の神としての一面を発揮して森を生み出し、豊穣の神ロノが食べ物となる作物を生み出して世界が完成した。
こうして世界を生み出したカネ、カナロア、クー、ロノは四大神と呼ばれ、ハワイ神話でも最高の地位を得ることになった。
ハワイ諸島の誕生とワケアとパパ
四大神によって形作られた世界であったが、ハワイ諸島を生み出したのは別の神々であった。
ある時、海の向こうのタヒチから一組の夫婦がやってきた。それが、空の神ワケアと大地の女神パパである。ギリシア神話の最初の夫婦もまた天空の神ウラノスと大地の女神ガイアであり、遠く離れたハワイとギリシアとの面白い一致だ。またタヒチから来た、というのも、ハワイ人の先祖が海を越えてたどり着いたことを反映しているのだろう。
このワケアとパパの間に最初に生まれたのがハワイ諸島最大の島、ハワイ島であった。
次に、マウイ島、カホオラヴェ島、モロキニ島と次々に子どもが生まれていった。これらの島々の誕生は、日本神話のイザナギとイザナミが国産みを行った話とよく似ている。
4人の子どもを産んだ後、パパはしばらく故郷のタヒチに戻ることになった。しかしなんと、その間にワケアは別の女性との間にラナイ島、さらに別の女神との間にモロカイ島を生み出してしまった。
島を生み出すという壮大なスケールの不実が女神パパにバレないわけがない。この事実はすぐにパパに知られることとなった。彼女は激怒し、タヒチから戻ってワケアに対抗して自分も別の人間の男との間にオアフ島を産んだ。「目には目を、歯には歯を」を地で行く精神。夫の不実に対して相手の女性やその子どもたちに陰湿で激しい迫害を加えるヘラとは大違いだ。
余談だが、私と妻が新婚旅行で訪れたのはオアフ島。同じような新婚カップルは多いだろうが、神話を知るとなんとも皮肉な気がしてしまう。
その後、ワケアとパパは仲直りし、カウアイ島やその北にある小さな島々が生まれた。
しかし、なかなかに複雑なきょうだい関係である。ハワイ島、マウイ島、カホオラヴェ島、モロキニ島、そしてカウアイ島以降の島々は同じ父母を持つきょうだい。これらの島々とラナイ島、モロカイ島は母親違いのきょうだい。ハワイ島やマウイ島とオアフ島は父親違いのきょうだい。ということは、ラナイ島、モロカイ島とオアフ島は赤の他人、ということになる。なんとも複雑な…
こうしてハワイ諸島が形成された…と神話は伝えるが、実はこの順序関係は地質学的には逆であった。
地質学的には、島々の形成は海底火山と海底プレートの動きに関連しているため、最も古い島々が北西に位置し、最も新しい島が東に位置するハワイ島である。もちろん神話が語られた当時はこのような研究は進んでおらず、最も大きく主要な島であるハワイ島が一番上の子どもとして設定されたのだろう。
四大神とワケア・パパ神話の整合性
また別の伝承では、パパが産んだひょうたんを使ってワケアとパパが世界を作った、とも言われている。この神話に従えば、四大神筆頭のカネが世界創造で使用したひょうたんがどこから来たのか?の説明がつく。
だがそもそも、四大神とワケア・パパ神話との関係性については微妙なところだ。もしかしたらカネがひょうたんを投げた際にハワイ諸島もできた、ということなのかもしれない。
ただ具体的に”ハワイ諸島を生み出した”という描写があるのがワケアとパパのいわゆる”国産み神話”であるため、今回はカネをはじめとする四大神が世界を生み出し、ワケアとパパはその中でハワイ諸島を生み出した、という構成とした。
人間の誕生
こうして世界とハワイ諸島が生み出された後、人間の誕生が描かれる。
”国産み神話”の中でパパが人間の男との間にオアフ島を産んでいなかったか…?という気はするのだが、そこは神話によくある矛盾として受け入れることにしよう。
さて、ハワイの島々を生んだワケアとパパの夫婦には、ホオホクカラニという美しい娘がいた。しかし、ワケアは実の娘に恋心を抱いてしまう。妻に対する2回の裏切りに続き、今度は娘にまで興味を抱くとは…
どうにも気持ちが抑えられなくなったワケアは、神官に相談することにした。神が神官に相談するとはこれは如何に…とは思うのだが、神官はワケアに助言を与えた。
「『神からのお告げで、夫婦は月に何夜か離れて過ごすことが決められた』と言ってください。パパ様はあなたを信じて、家を離れるでしょう。その隙に、あなたは想いを遂げることができます」
神官の言葉に従ったワケアの言葉を、パパは疑うことなく受け入れてしまう。前科2犯のワケアの言葉をそう簡単に信じてよいものだろうか…?
こうしてまんまとパパを遠ざけたワケアはついに、ホオホクカラニと関係を持ってしまった。
最初の夜はそれでもパパを警戒していたワケア。しかし2日目は気が緩んだのか、うっかり寝過ごしてしまう。昼までぐっすり眠り込んでしまったワケアは、慌てて自分の家に帰っていった。
だがその光景を、パパがこっそりと木陰から覗いて見ていたのだった。娘ホオホクカラニへの嫉妬に燃えたパパはそのまま家を出て行ってしまったのだった。
…いや、娘に嫉妬している場合ではないだろう。実の娘に興味を抱くような、そんなやばい男からは一刻も早く娘を救い出すべきだろう。現代の感覚から言えばそうは思うのだが…
その後、ホオホクカラニはワケアとの間に子どもを産むが、最初の子どもは生まれた時には既に亡くなっていた。その子どもの遺体を埋葬すると、そこからタロイモが生えてきた。
その後、彼女は再びワケアの子を妊娠。今度は健康な男の子ハロアを産んだ。ハロアは成長して立派な酋長となり、その子孫がハワイ人となったのだった。
…色々とツッコミどころはあるものの、この神話ではタロイモと人間が共通の親を持つ兄弟として描かれていることに注目したい。このエピソードからは、ハワイ人にとってタロイモがどれほど大切な作物であるかがはっきりと読み取れる。
また、この物語は日本神話のイザナギとイザナミの神話と多くの類似点がある。最初の子どもの境遇や国産みの話など、両者の神話の共通点には驚かされる。
単なる偶然かもしれないし、同じ太平洋上の島国という共通点から生まれたものかもしれない。あるいは、もしかしたら遠い昔に、元となる共通の神話が伝わっていたのかもしれない。
そんな想像を巡らせてみるのも楽しいものだ。
終わりに
今回紹介したのは、ハワイ神話の創世と人類誕生に関する部分であるが、ハワイ神話は地域ごとに異なる伝承が存在するため、矛盾や違いが多い。しかし、その多様性こそがハワイ神話の魅力でもある。
次回は、創世神話に続く「神々の物語」を紹介していきたい。
参考文献
『地球の歩き方 ハワイ島 2024~2025 (地球の歩き方C ハワイ南太平洋オセアニア)』 地球の歩き方編集室(2023年/地球の歩き方)
C02 地球の歩き方 ハワイ島 2024~2025 (地球の歩き方C ハワイ南太平洋オセアニア)
『地球の歩き方 ハワイ オアフ島&ホノルル 2024~2025』 地球の歩き方編集室(2023年/地球の歩き方)
C01 地球の歩き方 ハワイ オアフ島&ホノルル 2024~2025
『やさしくひも解く ハワイ神話』 森出じゅん著(2020年/株式会社フィルムアート社)
やさしくひも解く ハワイ神話
『 ハワイの神話 モオレロ・カヒコ』 新井朋子著(2009年/株式会社 文踊社)
ハワイの神話 モオレロ・カヒコ
『 ハワイの神話2 モオレロ・カヒコ』 新井朋子著(2014年/株式会社 文踊社)
ハワイの神話2 モオレロ・カヒコ
【クローズアップ科学】米ハワイ・キラウエア火山の噴火 新鮮なマグマ運ぶ「ホットスポット」 – 産経ニュース (sankei.com)
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