永遠の命の儀式!?エレウシス訪問記

ギリシア旅行記

訪問日:2018/10/28

古代世界において、人々の信仰を集めた”エレウシスの秘儀”。

かの英雄ヘラクレスも参加したと言われるこの儀式は、その内容が門外不出とされていたために現代では断片的な情報を推測するしかない。

そんな儀式が行われていたエレウシスは現代では”エレフシナ”という地名となり、かつての神殿は遺跡として残されている。

エレウシスの秘儀とは?

豊穣の女神デメテルは、冥界の王ハデスに娘コレーを連れ去られた際、深い悲しみの中で全世界をさまよった。

その旅の途中、老婆の姿に変装した彼女はエレウシスの人々に暖かく迎え入れられるのペルセポネ(冥界の王妃となった後のコレー)の2神を祭る儀式が行われることとなった。それが”エレウシスの秘儀”だ。

後に誤解からエレウシスの人々はデメテルの怒りを買い、償いとして自主的に、あるいはデメテルの命により、彼女に捧げる神殿を建てた。

その後、エレウシスではデメテルと娘のペルセポネ(冥界の王妃となった後のコレー)の2神をまつる儀式が行われることとなった。それが”エレウシスの秘儀”だ。

エレウシスの秘儀に参加すると、死後の幸福と永遠の命が約束されるとされており、年齢や性別、身分を問わずすべての人々に門戸が開かれていたため、古代には多くの人々の信仰を集めたという。

”12の功業”の最後の一つとして冥界に向かったヘラクレスや、キリスト教化する社会の中で流れに抗ってローマ古来の神々を大事にしたため”背教者”と呼ばれるローマ皇帝ユリアヌスもまた、この儀式に参加したと伝えられている。

しかし先述の通り儀式の中核部分は口外が厳禁されており、更に古代ローマ末期にキリスト教を国教化したテオドシウス帝により儀式自体が禁じられたため、現在では断片的な情報から内容を推測するしかない。

市バスの旅

エレウシスはアテネから22kmの距離にあり、ガイドブックでもアテネ近郊の遺跡として紹介されている。長距離の移動とは異なり、KTELではなく市バスを利用することになる。

ガイドブックに従いエレフテリアス広場近くでバスを待つも、時刻表がないためにいつ来るかわからず、いくつかのバスの運転手に聞きながらようやくエレウシス方面のバスを探し当てた。どうやら直通ではないようで、乗り換えが必要とのことだった。

9時過ぎに出発したバスは海沿いを走り、やがて左手にはサラミス島が見えてきた。ペルシア戦争の目玉の一つ”サラミスの海戦”で名高いこの島は、ペルシア戦争の際にアテナイの市民が疎開した島であるまた、トロイア戦争で活躍した大アイアスやその弟テウクロスの故郷ともされている。

9時半頃に乗り換え地点に到着し、親切な運転手から乗り換えのバスを教えてもらった。教えられた通り845番という表示のあるバスはすぐに来て、10分余りでエレウシスに到着した。

エレウシスは静かな街で、初めて来たのにどこか懐かしさを感じる街だった。

遺跡はしばらく歩き回った後に見つけることができた。

エレウシスの遺跡

遺跡の入場料は通常6ユーロだが、この日はアテネとその周辺の古代遺跡がすべて無料となる日だった。そういえばガイドブックにもそんなことが書いてあったな、と思いつつ、アテネだけでなく近郊の遺跡も無料になることに驚いた。

混雑を避けたい自分にとって、空いている遺跡を無料でゆっくり見られるのは嬉しいことだった。エレウシスに到着した時には他に誰もおらず、得した気分だった。

入場するとすぐに遺跡が広がっている。門の遺跡はほとんど基礎部分しか残っていないが、古代には立派な建造物があったのだろうと容易に想像できる。

ローマ皇帝の凱旋門(筆者撮影)

初穂を納めていた貯蔵施設の跡や神殿の跡も至る所に残されており、古代へのロマンを掻き立ててくれる。

在りし日のエレウシス遺跡の模型(筆者撮影)

だが途中で邪魔者が現れた。犬だ。それも大きな犬が2頭。

エレウシス遺跡にいた犬(筆者撮影)

前方に現れて進路を妨げ、避けるとついてくる。首輪はついていたが、恐らくは野良犬だ。ギリシアの街中にはこういった犬が多い。かつてはもっと凶暴な犬が歩き回っていたものの、2004年のアテネオリンピック以降、こうした野良犬は一度捕らえて去勢手術を施し、狂犬病のワクチンを打った後に後に再び放っているのだとか。

ただ去勢されているとは言え大きな犬についてこられるのは正直怖いし、写真を撮るにも観光するにも邪魔になってしまう。結局この日は係りの人が犬を私から遠ざけてくれたが、遺跡内にまで犬が侵入してしまうことはデメリットが大きいのではないだろうか?今回のように観光客の妨げになってしまうし、糞尿等で汚れてしまう可能性も高い。ギリシアが観光を主要な収入源の一つとするならば改善すべき点は色々とあるが、野良犬も大きな問題の一つだと思う。

洞窟とテレステリオン

さて、話がずれてしまったが、気を取り直して遺跡内の洞窟に向かった。

冥界につながるとされる洞窟(筆者撮影)

エレウシスの洞窟は、1年の3分の1を冥界で過ごすことになったペルセポネが地上の間を行き来したとされる場所である。後日訪れたタイナロン岬の洞窟もそうだったが、冥界を連想させるような陰鬱さや恐ろしさは感じなかった。

さらに進むと、エレウシスの秘儀が行われていたテレステリオンにたどり着く。

テレステリオン。かつては大きな遺跡だったのだろう(筆者撮影)

儀式に用いられていたとされる台座を中心に遺跡が広がっている。柱もほとんど原型をとどめていないが、古代には大きな神殿だったのだろうと推測できる。少し上に登ると全体を収めた綺麗な写真を撮ることができた。

この儀式は実際にはどのようなものであっただろうか?滅びてしまったのが本当に残念だ。

尤も、仮に現存しており広く門戸が開かれていたとしても、SNSが発達した現代では秘儀の内容を秘密のままにしておくことは難しいのだろうが…

博物館

遺跡の最奥には博物館があり、神々の像や豚の石像、変わった形の壺等、面白いものもいくつか展示されていた。

博物館に展示されていた豚の石像(筆者撮影)

特筆すべきものとしては、デメテルがエレウシスの王子トリプトレモスに麦穂を手渡している場面を描いたレリーフが挙げられる。ただし、エレウシスにあるのはレプリカで、本物はアテネの国立考古学博物館に所蔵されているのだとか。

トリプトレモスに麦穂を授けるデメテル(筆者撮影)

博物館前の庭からは海を眺めることができ、天気が良かったため景色を楽しむことができた。

遺跡に戻ると、先ほどまではいなかった他の観光客の姿があった。昼近くになり、一般的な活動時間となったのだろう。貸し切り状態だった遺跡をじっくりと見学できたため、軽く一回りして遺跡を後にした。

アテネへの帰路

バス停近くの売店でアテネ行きのバスを確認、チケットを購入した。

アテネまでは1.4ユーロ。これは地下鉄とも共通のチケットであり、90分以内ならば乗り放題である。

売店の方は英語がそれほど堪能ではなく、最低限の情報しか得られなかったため、結局はバスの運転手にアテネへの戻り方を尋ねて回った。

ようやくアテネ方面へのバスを見つけたのは30分ほど経ってからのことで、出発は12時ちょうどだった。

ちなみにアテネの市バスでは乗車時にチケットの刻印をしなければならないが、管理はかなりテキトーだった。バス停でないところで乗り降りする人も多く、良くも悪くも自由なのだろうか。

アギア・マリア駅に到着し、ここから地下鉄に乗り換えてアテネのモナスティラキ駅まで十分ほど乗車した。アテネからエレウシスまでのルートはガイドブックに載っているが、情報が古くなっているようだ。モナスティラキ駅から地下鉄を利用してアギア・マリア駅まで行き、バスに乗り換える方法が一番確実ではないかと感じた。

終わりに

神話や歴史の偉人たちも参加したというエレウシスの秘儀。

この日は観光客が少なかったこともあり、デメテルとペルセポネに由来するこの儀式が行われていた跡地をゆったりと堪能することができた。

ギリシア神話は現実のギリシアという地を舞台としているため、実際にその地を訪れ、神々の足跡をたどることができるのも大きな魅力だろう。


地球の歩き方 A24 ギリシアとエーゲ海の島々&キプロス 2019-2020

コメント

タイトルとURLをコピーしました