訪問日:2018年10月26日
オリンポス神族が現れる以前、世界を支配していたティタン神族。
その王クロノスは、自らの子に王位を奪われることを恐れ、子が産まれる度にこれを丸飲みにしてしまった。
クロノスの妻レアは5人の子を食べられた後、最後の子だけは無事に育てようと、クレタ島の洞窟に匿うことにした。成長したその子は一計を案じて父の体内から兄や姉を救い出し、彼らと協力してクロノスを王位から追い落とす。
こうして神々の王の座についたのが、ゼウスである。
難航した情報収集
ゼウスが養育されたと言われているディクテオン洞窟は、クレタ島に数多く存在する洞窟の一つであり、古代にはゼウスの聖域として祀られていた。
しかし現在では非常にアクセスの悪い場所となっている。ガイドブックには「インフォメーションや旅行会社で情報を集め、ツアーに参加するのがよい」と書かれているのみで、日本にいる間に具体的な情報を得ることはできなかった。
それならば現地で調べようと決意し、インフォメーションを訪れたが、「個人単位でバスで行くのは難しい」、「旅行会社に聞いた方がいい」という情報しか得られなかった。
半ば諦めつつも、目に入った海岸沿いの小さな旅行代理店へ足を運んだ。拙い英語で必死にディクテオン洞窟に行きたいと伝えると、スパロウ・トラベルという会社のツアーを紹介してくれた。
料金は32ユーロ。タクシーツアーで200ユーロ近くかかるという記録も読んでいたため、とても安く感じた。
洞窟への道のりと到着
翌朝7:05、指定された集合場所でバスに乗った。バスはクレタ島内のいくつかの町に寄りながら乗客を集め、ゆっくりと進んでいった。
最終的には大型バスいっぱいに乗客が乗っており、想像していたよりも大規模なツアーだった。途中で2つの小さな教会に立ち寄り、ディクテオン洞窟の駐車場に到着したのは11:10頃であった。
12:30集合と言われ、それまで自由行動となった。ぞろぞろと集団で見て回るのが苦手なため、これは好都合だった。洞窟までの坂道を勢いよく登り、入り口でチケットを購入。通常6ユーロ、ここでは学割が効いて半額の3ユーロで入場できた。
鍾乳石に飾られた天然の神殿
洞窟の入り口は、大地がぽっかりと口を開けているかのようだった。
整備された階段が続いており、足元の心配はない。薄暗い明かりに照らされている洞窟内は、幻想的な雰囲気を醸し出していた。
入ってすぐは通常の岩肌だが、少し降りるとそこには鍾乳洞が広がっていた。
あるいは地面から生え、あるいは天井から垂れ下がる鍾乳石。
精巧な彫刻を施された支柱のような鍾乳石に飾られ、洞窟はそれ自体がまるで天然の神殿のようだった。
ここならば、確かに神の居る場所にふさわしいかもしれない。そう思わせる厳かさに満ちた、神秘的な地であった。
ゼウスはここで育ち、後にオリュンポス山で神々の王として君臨した。
自分は誕生の地と王座、その両方に行ったのだと思うと、感動で胸がいっぱいになった。
しばらく洞窟内を堪能した後、外へ出ると観光客は想像していたよりもずっと多く、これならばもっとバスを出しても採算が取れるのではないかと思った。
いや、これはもしかすると旅行会社の稼ぎの種であり、ツアーに参加させるため敢えて交通の便を悪くしているのかもしれない。
あるいは、過度の混雑防止や洞窟の保全への懸念からの措置かもしれない。
クレタ島の風景と旅の終わり
洞窟は高台にあるため、眼下に景色を臨むことができる。山々に囲まれた盆地に畑が広がっており、のどかな風景が広がっていた。荘厳な洞窟には似つかわしくないように思えたが、現代風の大きな町が広がるよりはずっと古代に近い風景なのかもしれない。
帰り道もバスは2ヵ所ほど立ち寄った。行きに訪れた教会もそうだが、ディクテオン洞窟と比べれば見劣りしてしまうことは否めない。見学にもそれほど熱は入らず、洞窟の余韻に浸りながらのんびりと見て回った。
またお昼には”Kourites”というタベルナ(大衆食堂)に寄り、食事を楽しんだ。
そんなこんなで、バスがイラクリオンの街に着いたのは17:00過ぎ。半日近いツアーであり、大学生の節約旅行にしては多少大きな出費となったが、それだけの価値のある場所だった。
ディクテオン洞窟は、ゼウスの伝説を身近に感じられる神秘的な場所である。アクセスの悪さもかえって冒険心をくすぐり、訪れる者に特別な体験を与えてくれる。今回のギリシア旅行で3本の指に入る、行ってよかったスポットとなった。
地球の歩き方 A24 ギリシアとエーゲ海の島々&キプロス 2019-2020
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